1. ドローンの災害時活用の要点
ドローンの災害時活用における重要なポイントを、法規制、運用、体制整備の観点から整理します。
① 迅速な被害状況の把握とデジタル化
災害発生直後、ドローンは道路の寸断や二次被害の危険がある場所でも、安全かつ迅速に被害状況を確認できます。
- 3次元データの活用:屋外用ドローンで取得した映像からデジタルツインソフトウェアを用いて被災箇所の3次元データを生成することで、現地の状況把握を早期に実現できます。
これにより、道路インフラの復旧方法や優先順位の策定が高速化され、人命救助や早期復旧に大きく寄与します。 - 被害認定調査の効率化:ドローン画像を被害認定調査に活用することで、罹災証明書の発行を迅速化し、被災者の早期生活再建を支援できます。
実際に石川県珠洲市では、ドローン写真を民間システムに取り込み、他自治体からリモートで調査を実施した事例があります。
② 孤立地域等への物資輸送
車両通行が困難な地域への緊急物資輸送は、ドローンの極めて有効な活用手段です。
- 緊急支援物資の配送:能登半島地震では、倒木で遮断された高齢者施設へ、生活用品をドローンで配送した実績があります。
- 補助金制度の活用:国はドローンを活用した災害時の物資輸送訓練や計画策定を支援するため、「ドローンを活用した災害物資輸送に関する調査等事業」などの補助金を提供しています。
③ 法規制の遵守と特例の適用
ドローン運用には、航空法をはじめとする法令遵守が不可欠ですが、災害時には特例が適用される場合があります。(航空法132条の92)
- 技能証明と機体認証:特にリスクの高い第三者上空での飛行(カテゴリーIII飛行、レベル4飛行)には、一等無人航空機操縦士の技能証明と第一種機体認証を受けた機体、そして国による飛行許可・承認が必要です。
- 捜索・救助の特例(航空法第132条の92):災害時の捜索・救助活動においては、航空法の飛行許可・承認なしで実施できる特例があります。
ただし、平時からの訓練や準備が重要であることに変わりはありません。 - 緊急用務空域の確認:災害時には消防や自衛隊等のヘリコプターが活動するため、「緊急用務空域」が指定されます。
無人航空機の操縦者は、飛行前に当該空域が指定されていないか確認する義務があり、原則としてその空域での飛行は禁止されます。
④ 有人航空機との共存と安全管理
有人ヘリコプター等との衝突回避は、災害現場における最優先事項の一つです。
- 衝突回避行動:有人航空機の航行を妨げないよう、接近を確認した場合は地上に降下させる等の措置を取らなければなりません。
和歌山県すさみ町の実証実験では、ヘリ接近時に5分以内にドローンを緊急着陸させる運用体制が検証されています。 - 緊急時の対策手順:不測の事態に備え、あらかじめ緊急着陸地点を選定し、対策手順を定めておくことが求められます。
⑤ 平時からの体制整備と官民連携
有事の際に円滑に運用できるよう、平時からの準備が欠かせません。
- フェーズフリーの視点:平時は橋梁点検や鳥獣被害調査などで活用している機体や職員を、有事にはそのまま災害対応に当てる「平時と有事の使い分け(フェーズフリー)」の体制構築が、費用対効果の面でも有効です。
- 災害協定の締結:自治体が自らドローンを保有するだけでなく、民間事業者や団体と災害時応援協定を締結しておくことで、高度な操縦技術や機材を迅速に確保できます。
- 通信環境の確保:山間部等の通信困難地域では、衛星通信サービス(Starlink等)を活用した遠隔監視や連絡体制の整備が有効です。
ドローンの活用は、従来の目視や徒歩による活動の「情報の空白時間・空白地域」を解消し、災害応急対策を飛躍的に強化する可能性を秘めています。
2. 災害時のドローン活用の事例
災害時におけるドローンの具体的な活用事例を「状況把握」「物資輸送」「避難支援」「インフラ・環境監視」の4つの観点と「実務でのポイント」を整理して解説します。
① 被害状況の把握
災害発生直後の立ち入り困難地域において、迅速な情報収集に活用されています。
- 罹災証明書発行の迅速化(石川県珠洲市):ドローンで撮影した写真を民間の調査システムに取り込み、他自治体(熊本市)からリモートで被害認定調査を実施しました。
これにより、現地調査のマンパワー不足を補い、罹災証明書の早期交付を実現しました。 - VTOL型ドローンによる広域調査(能登半島地震):垂直離着陸が可能なVTOL型ドローンを用い、市全域の被害状況を早期に把握しました。
取得した映像からデジタルツインソフトウェア(TRANCITY)を用いて3次元データを生成し、道路復旧の優先順位策定や、消防・自衛隊の手配を高速化させました。 - 情報の空白時間の解消:日没後の発災などで航空機による収集が困難な場合でも、夜間・全天候型ドローンの活用により、建物倒壊や土砂崩壊の状況を速やかに把握することを目指しています。
② 物資輸送
車両の進入が不可能な地域への緊急物資配送に大きな成果を上げています。
- 高齢者施設への生活用品配送(石川県能登町):倒木で道路が寸断された施設へ、約700mの距離を飛行して食料や衛生用品を届けました。
この際、「捜索救助の特例(航空法第132条の92)」を適用し、許可・承認なしで緊急飛行が行われました。 - 医薬品等の配送実証(岩手県・和歌山県):岩手県八幡平市での医薬品配送や、和歌山県すさみ町での孤立避難所への物資輸送など、平時からの訓練やルート設定が進められています。
③ 避難支援・誘導
住民や観光客の安全を確保するための広報・誘導に活用されています。
- 津波避難広報システム(宮城県仙台市):自動運航ドローンにより、津波接近時の避難広報を実施するシステムが導入されています。
- スピーカーを用いた個別誘導(岩手県):防災無線が届きにくい地域や、土地勘のない観光客に対し、スピーカー搭載ドローンで避難誘導を行う実証実験が行われています。
④ インフラ点検と環境監視
二次被害の危険がある現場の継続的な監視に有効です。
- 火山・土砂災害の監視:桜島などの火山地帯において、UAV(無人航空機)で観測機器を運搬・設置し、立入規制区域内の状況を遠隔監視する手法が開発されています。
また、3次元データを用いて天然ダム(河道閉塞)の湛水量予測や崩落土量の算出が行われています。 - 携帯電話基地局の応急復旧:ドローンに基地局機能を持たせ、上空100mに停留させることで、半径数kmの通信エリアを確保する「有線給電ドローン無線中継システム」が活用されました。
⑤ 実務ポイント
災害時の運用には、以下の体制整備が重要となります。
- 特例の適用と安全管理:捜索救助の特例がある一方、有人ヘリとの衝突回避が最優先です。
すさみ町の実証では、ヘリ接近時に5分以内に緊急着陸させる運用マニュアルが策定されています。 - 通信環境の確保:LTE不感地帯での運用を想定し、Starlinkなどの衛星通信をバックアップとして活用する体制が有効です。
- フェーズフリーと災害協定:平時は橋梁点検等で活用し、有事には即座に災害対応へ切り替える「フェーズフリー」の視点や、民間事業者との事前の災害時応援協定が迅速な初動を支えます。
3. まとめ
災害時、ドローンは現場の3次元データ化による迅速な被害把握や、道路寸断地域への医薬品・生活物資の輸送、避難誘導などに大きく貢献します。
法規制上、航空法第132条の92の特例により、国や地方公共団体、またはその依頼を受けた者が、事故や災害に際し捜索、救助その他の緊急性がある目的で行う飛行については、特定飛行の許可・承認の手続きが適用されません。
この特例には被災者の捜索だけでなく、孤立地域への生活必需品輸送や危険箇所の調査・点検も含まれます。
ただし、有人ヘリ等の航行安全を確保するための「緊急用務空域」の確認や衝突回避は、操縦者の義務として最大限優先されなければなりません。
有事に即応するためには、平時の業務で活用している機体や人員を災害時に転用する「フェーズフリー」の体制構築や、民間事業者との災害時応援協定の締結、衛星通信による通信環境の確保が極めて重要です。
