ドローンの仕事(インフラ保守点検)

1. インフラ保守点検の要点

ドローンを用いたインフラ保守点検業務の要点を以下の4つの観点でまとめました。

① 国土交通省による「点検支援技術」の活用原則化

国土交通省は、インフラ点検の効率化・高度化のため、「点検支援技術性能カタログ」を策定し、現場への実装を推進しています。

  • 活用の原則化:直轄国道の点検において、橋梁・トンネルは令和4年度から、舗装は令和5年度から、道路巡視は令和7年度から、特定の項目について点検支援技術の活用が原則化されています。
  • ドローン役割:カタログには、ドローンによる損傷把握技術や、搭載された赤外線カメラによる変状調査技術(コンクリートの「うき」の検知など)が掲載されており、従来の高所作業車や近接目視に代わる有力な手段となっています。

② 対象施設ごとの点検内容

ドローンは多岐にわたるインフラ施設の点検に活用されています。

  • 橋梁・トンネル:画像計測によるひび割れや漏水の自動検出、3次元点群データ解析による変形の把握が行われます。
  • 河川・砂浜:河道内の砂州堆積や樹木群の生育状況、海岸線の侵食状況を面的に把握しします。
    従来の徒歩や船による巡視に比べ、人が近づきにくい危険箇所の状況を安全に把握できるのが大きな利点です。
  • 上下水道:硫化水素が滞留する現場や、人が進入困難な狭小な管路内でも、ドローンを用いることで安全な場所からの点検調査が可能になります。
  • 砂防施設:ドローンを活用した施設点検調査技術の高度化が進められています。

③ 飛行許可申請と安全運航マニュアル

業務として点検を行う際は、国土交通省航空局の標準マニュアルを遵守する必要があります。

  • マニュアルの区分:インフラ点検には、特定の場所を対象とする「航空局標準マニュアル①(インフラ点検)」と、場所を特定しない申請に適した「航空局標準マニュアル②(インフラ点検)」があります。
  • 立入管理の徹底:原則として第三者の上空では飛行させないことが義務付けられており、補助者の配置や看板・コーンなどによる立入管理区画の明示が必要です。
  • 機体の点検・整備:飛行前後の点検に加え、20時間の飛行毎に詳細な点検・整備を行い、記録を管理する必要があります。
  • 操縦者の技能:基本的な操縦練習(10時間以上)に加え、業務に必要な「対面飛行」や「8の字飛行」などの技量習得が求められます。
    目視外飛行を行う場合は、さらなる教育訓練が必要です。

④ 最新の制度と効率化技術(レベル3.5とDX)

点検業務の負担を軽減するための制度整備も進んでいます。

  • レベル3.5飛行:2023年12月に新設された区分で、機上カメラによる歩行者等の確認、操縦ライセンスの保有、保険加入を条件に、補助者や看板の配置なしでの目視外飛行が可能となり、道路や鉄道の横断も容易になりました。
  • デジタル技術の融合:ドローンで撮影した写真から3次元モデルを作成し、PC上で被害箇所の計測や被災ボリュームの推定を行うなど、迅速かつ安全な状況把握が可能になっています。

2. ドローンを用いたインフラ施設の保守点検の事例

① 橋梁・トンネルの点検

ドローンは、従来の高所作業車や近接目視に代わる手段として広く活用されています。

  • 損傷把握と変状調査:ドローンで撮影した画像を解析し、橋梁の損傷状況を把握します。
    特に、赤外線カメラを搭載したドローンを用いることで、コンクリート表面の温度分布の違いから、目視では困難な「うき」を検知することが可能です。
  • 自動検出技術:トンネル内では、ドローンで取得したデジタル画像とAI(画像処理技術)を組み合わせることで、ひび割れ、漏水、遊離石灰などの変状を自動で検出するシステムが導入されています。

② 河川および砂防施設の点検・巡視

人が近づきにくい危険な場所や、広範囲な状況把握にドローンが威力を発揮します。

  • 河川巡視の高度化:従来はパトロール車や徒歩、船で行っていた巡視をドローンに置き換えています。
    これにより、河道内の砂州堆積、樹木群の生育状況、河岸の損傷などを、安全かつ面的に把握できるようになりました。
  • 砂防施設の調査:狭隘な山間部に位置する砂防施設では、点検に危険を伴う箇所が多いですが、ドローン(UAV)を活用することで、三次元データによる被害箇所の計測や土砂量の推定が可能になり、点検精度と安全性が大幅に向上しています。
  • 海岸線モニタリング:砂浜の侵食状況を把握するため、ドローンによる測量が行われてています。
    従来の人力による線的なデータから、ドローンによる面的なデータ取得へと高度化されています。

③ 上下水道(管路内)の点検調査

ドローンは、目視が困難で危険を伴う地下の管路点検において、革新的な役割を果たしています。

  • 「上下水道DX技術カタログ」の策定:国土交通省は、令和6年度末までに点検調査や劣化予測に活用できるDX技術をまとめたカタログを策定し、今後3年程度での標準実装を目指しています。
    ここにはドローンを用いた調査技術も含まれます。
  • 硫化水素滞留環境下での安全保:硫化水素が滞留するような人体に有害な環境であっても、ドローンを活用することで、操縦者は地上や安全な場所から内部の状況を詳細に調査できます。
  • 鮮明な映像による早期修繕:導入自治体からは、「思っていた以上に映像が鮮明で、隅々まで確認できる」との評価が出ており、従来の手法では気づけなかった設備の不具合を早期に発見し、修繕につ
    なげる効果が発揮されています。
  • 道路陥没事故の未然防止:下水道管の破損は大規模な道路陥没(例:埼玉県八潮市の事例)を引き起こす恐れがあるため、ドローン等を用いた高度な点検手法の確立が急務となっています。

④ 道路・トンネルの高度な点検

道路構造物では、令和7年度より点検支援技術の活用がさらに原則化されています。

  • AIによる変状の自動検出:トンネル点検において、ドローン等で撮影したデジタル画像とAI(画像処理技術)を組み合わせ、ひび割れ、漏水、遊離石灰などの変状を自動で抽出するシステムが実用化されてます。
  • 赤外線カメラによる「うき」検知:ドローンに搭載した赤外線カメラの画像を解析し、表面温度分布の違いから、コンクリート内部の「うき」を非破壊で検知します。
  • 3次元点群データによる変形把握:構造物を立体的に計測し、過去のデータとの差分を解析することで、目視では捉えにくい構造物の歪みや形をカラーマップで可視化します。

⑤ 鉄道施設の点検効率化

鉄道インフラの維持管理において、特に効率化が期待されているのは以下の領域です。

  • 光ファイバーによる地震点検範囲の適正化:従来の点検は地震計の観測値に基づき広い区間を一律に行っていましたが、既設の光ファイバーケーブルをセンサーとして活用するDAS(Distributed Acoustic Sensing)技術の開発が進んでいます。
    これにより、線路沿いの詳細な地震動分布を直後に把握できるため、点検が必要な箇所を的確に絞り込み、列車の早期運転再開が可能になります。
  • 携帯端末を活用した軌道状態評価:高価な軌道検測車の導入が困難な地域鉄道において、運転台に設置したスマートフォン等の携帯端末で前方動画を取得し、AIで線路の異常を自動検知するシステムが開発されています。
    蓄積データの経時変化を解析することで、熟練技術者に頼らずに適切な保守時期や方法を診断できるようになります。
  • 駅ホームでの安全性確保:既存の監視カメラに画像処理装置を付加し、AIが旅客のホーム端歩行や転落などの危険な行動を自動検出する技術も導入されています。
    これにより、駅係員への迅速な通知や自動アナウンスが可能となり、事故の未然防止と初期対応の迅速化が図られます。

⑥ 災害時の緊急診断と復旧支援

被災した施設の早期復旧は、利用者の利便性確保に直結する重要な課題です。

  • 被災橋脚の定量的な緊急診断:豪雨等で被災した鉄道橋脚に対し、ドローン撮影やセンシング技術を用いて「再供用が可能かどうか」を迅速かつ定量的に判断する診断手法の開発が行われています。
    これにより、莫大な経費と期間を要する抜本対策が必要かどうかの判断が大幅にスピードアップします。

3. まとめ

日本が強みを持つこれらの「質の高いインフラメンテナンス技術」については、国際標準(ISO/IEC)の獲得に向けた動きも加速しています。

インフラ保守点検におけるドローンの活用は、いわば「デジタルな目と耳」を現場に送り込むようなものです。

従来、人間が命綱を頼りに高所で苦労して確認していた場所も、適切に整備された機体と熟練した操縦者がいれば、安全かつ正確に、そして「カタログ」という共通の尺度で評価できるようになります。

ドローンを用いたインフラ点検は、国土交通省の「性能カタログ」活用原則化により社会実装が急進しています。
トンネルや管路の自動検出、災害時の3次元モデル作成など多岐にわたります。

ドローンは、老朽化対策と人手不足を解消する「現場のデジタルの目と耳」として不可欠な役割を担っています。

出典:点検支援技術性能カタログ(国土交通省)