1. 農業分野におけるドローン利用
農業分野におけるドローン(無人航空機)の利用、特に農薬等の空中散布に関して、申請者に求められる法的な要件と安全対策の要点をまとめます。
無人航空機による農薬等の空中散布は、作業負担軽減に資する技術として期待されていますが、安全かつ適正な実施のために、「航空法」に基づく手続きと「農林水産省の安全ガイドライン」に基づく運用上の厳格な注意が必要です。
① 法的手続きと許認可の要件
無人ヘリコプターや無人マルチローターを用いて農薬、肥料、種子、融雪剤等の空中散布を行う場合、以下の手続きが必要です。
| 手続き | 根拠法規 | 詳細 |
|---|---|---|
| 飛行の許可・承認 | 航空法 | 農薬等の危険物輸送や物件投下を伴う空中散布は、航空法に基づき、あらかじめ国土交通大臣の承認を受ける必要があります。また、空港周辺、人口集中地区(DID地区)の上空、地表または水面から150m以上の空域など、特定の空域で飛行する場合は許可が必要です。 |
| 申請期限 | 航空法 | 許可・承認申請は、散布予定日の少なくとも10開庁日前までに、ドローン情報基盤システム2.0(DIPS2.0)または書面(郵送)により提出する必要があります。 |
| 飛行計画の通報 | 航空法 | 農薬散布などの特定飛行を行う者は、事前に飛行の日時、経路などの事項をDIPS2.0の飛行計画通報機能で国土交通大臣に通報する義務があります。 |
| 機体登録 | 航空法 | 100グラム以上の無人航空機は登録が義務化されており、登録記号の機体への表示とリモートID機能の搭載が必要です。 |
| 操縦者の技能 | 航空法 | 飛行の許可・承認にあたっては、飛行を予定している機体の種類別に原則として10時間以上の飛行経歴が求められます(物件投下承認を受ける場合は、これに加え5回以上の物件投下の実績が必要です)。国の指定試験機関や民間講習団体等で知識・技能を習得することが可能です。 |
② 安全対策と運用上の留意事項
農薬散布においては、農薬取締法に基づく農薬の使用者が遵守すべき基準と、農林水産省の「空中散布ガイドライン」に従い、農薬の飛散(ドリフト)や事故を防ぐ対策を講じる必要があります。
⑴ 実地確認と情報共有の徹底
操縦者と補助者は共同で実地確認を実施し、電線や支線、家屋への引込線などの見えにくい障害物や危険箇所、実施除外区域(散布を行わない区域)の情報を確実に把握し、共有してください。
⑵ 飛行経路の設定
飛行経路は、追い風によるオーバーランを避けるため、風下から散布を開始する横風散布を基本とします。
人、家屋、架線、河川、有機農業が行われているほ場など、農薬の飛散を防止すべき対象に向かった飛行経路は避け、対象に対し平行な散布(枕地散布)に努めます。
ほ場の上空に架線が入り込んでいるなど、通常の飛行方法による空中散布が困難な場合は、空中散布を実施しない判断も必要です。
⑶ 周辺への情報提供
実施区域及びその周辺に学校、病院等の公共施設、家屋、蜜蜂の巣箱、有機農業が行われているほ場等がある場合は、居住者等に対し、十分な時間的余裕を持って散布日時、農薬使用の目的、種類、連絡先などを事前に提供する必要があります。
⑷ 薬剤の選定と計画見直し
隣接する作物への影響や水道水源の近接などを考慮し、万が一飛散した場合に備えて適用のある農薬の選択や、飛散の少ない粒剤等の剤型を選定します。
危被害を防止できないおそれがある場合は、空中散布の計画自体を見直す必要があります。
⑸ 連携の強化
操縦者は補助者からの障害物等に関する情報伝達を毎回確認し、補助者は迅速かつ正確な情報伝達を行うなど、綿密な相互コミュニケーションを常に心掛けることが重要です。
⑹ 天候判断
散布中、気象条件の変化を随時確認し、強風により散布作業が困難であると判断される場合や、農薬が飛散する可能性がある場合は、散布を即時中止し、気象条件が安定するまで待機することが必須です。
⑺ 飛行方法の遵守
ほ場間を移動させる場合は、架線上を横断するなどの不適切な飛行を避け、機体を着陸させ、陸上で運搬してください。
⑻ 農薬ラベルの遵守
農薬ラベルに表示される使用方法(使用量、希釈倍数等)を遵守してください。
⑼ 防護装備
操縦者及び補助者は、農薬暴露を回避するため、防護装備(ヘルメット等)を着用することが望ましいです。
③ 事故の傾向と報告義務
令和6年度の報告事例では、電線等への接触に起因する事故や、強風時の散布中止の不徹底による薬剤流出などの不適切な飛行が主な事故原因とされています。
事故が発生した場合は、その類型に応じて、異なる行政機関への報告義務が生じます。
| 事故の類型 | 具体例 | 報告先 | 報告方法 |
|---|---|---|---|
| 農薬事故 | ドリフトによる飛散、農薬流出、農作物への被害 | 都道府県農薬指導部局 | 「空中散布ガイドライン」の別記様式(事故報告書)を作成し、速やかに提出。 |
| 航空法に基づく事故・重大インシデント | 人の死傷、第三者の物件損壊(農薬に起因する農作物被害を除く)、機体の制御不能、発火など | 地方航空局保安部運航課または空港事務所 | 原則「DIPS2.0」における事故等報告機能を用いて速やかに報告。 |
| 飛行日誌の作成 | – | – | 特定飛行を行った場合、飛行記録や日常点検記録等の情報を遅滞なく飛行日誌に記載する義務があります。 |
農業ドローンを用いた空中散布を適正に行うためには、国土交通大臣への許可・承認申請と飛行計画の通報といった法的な手続きに加え、実地確認と操縦者・補助者の連携強化を通じた架線や障害物への接触防止、そして強風時の作業中止の徹底による農薬ドリフト防止が、安全運航の鍵となります。
これは、飛行機のパイロットがフライト前に完璧なチェックリストを消化し、天候が悪ければ離陸を延期するのと同様に、安全確認とリスク回避を最優先にすることが求められるためです。
2. 農業用ドローンにおける主な事故事例と原因
令和6年度に国土交通省へ報告された無人航空機による事故のうち、約70%は農薬散布中に発生しています。
そして、これらの事故の多くは電線等への接触に起因しています。
ドローンの空中散布を行う実施主体(操縦者や委託者)は、「農薬取締法」および農林水産省の「空中散布ガイドライン」に基づき、農薬の飛散(ドリフト)防止と安全な飛行を徹底する義務があります。
① 事故の原因類型(令和6年のドローンによる空中散布での農薬事故)
令和6年度の報告事例に基づくと、ドローンの空中散布事故の主な原因は、事前確認不足と不適切な飛行方法、および操縦者と補助者の連携不足に集中しています(農水省発表)。
| 主な事故原因 | 発生件数 (R6年度) | 具体的なリスク |
|---|---|---|
| 不適切な飛行方法 | 4件 | 架線や建物に向けた飛行、散布高度の不適切さ、強風時の散布中止の不徹底 |
| 事前確認不足 | 1件 | 架線や引込線などの見落とし、危険箇所の把握漏れ |
| 操縦者と補助者の連携不足 | 1件 | 障害物情報共有の遅れ、配置の不適切さ |
| 操縦者の操作ミス、目測誤り | 1件 | 旋回時の架線接触、機体と障害物の距離の見誤り |
| 合計 | 7件 | – |
令和5年度、国交省発表だと65件中51件が農薬散布による事故です(飛行の目的別、農薬散布51件、空撮3件、訓練飛行2件、インフラ点検1件、輸送・宅配1件、その他7件)。
② 具体的な事故事例
⑴ 架線等への接触による事故
電線や引込線への接触:電話線や送電線への接触により、機体が損傷し、積んでいた薬剤が流出する事故が発生しています。
移動時の不適切な飛行:ほ場間を移動させる際に、作業時間を短縮するために架線の上を横断するなど不適切な飛行を行い、接触につながるケースが報告されています。
また、家屋等への引込線や電柱の支線など、見えにくい障害物を見落として接触する事例もあります。
⑵ 農薬の飛散(ドリフト)事故
強風時の不徹底:強風時に散布を続行した結果、農薬が実施区域外に飛散(ドリフト)し、周囲の作物に被害を与えたり、自動車に農薬がかかったりした事例が報告されています。
⑶ 操作・システムに関する事故
操縦技術の不足:操縦に不慣れだったり、山間部などでGPSの受信不良が起こりやすいことに留意せず、機体が意図しない動きをした際に適切なコントロールができず、建物等へ接触してしまった事例があります。
散布ほ場の誤り:散布するほ場を誤ってしまい、農薬事故につながった事例があります。
3. まとめ
農業ドローンは生産性向上に不可欠な技術ですが、令和6年度に報告された事故の約70%が農薬散布中に発生しており、その多くが電線などへの接触に起因しています。
事業の安定と安全を確保するためには、法的な義務と安全運航の基本を徹底することが最も重要です。
農業ドローンによる空中散布は、まさに「空飛ぶ農作業」です。
飛行機が離陸前に徹底的なチェックを行うように、全ての作業において「安全確認とリスク回避」を最優先に考え、許可された「飛行マニュアル」と「安全ガイドライン」を厳守する意識を持ち続けることが、この事業を継続させるための絶対条件となります。



