1. レベル3.5飛行とは?
① 飛行レベルの分類の背景
これまでドローンの飛行形態を「レベル1〜4」で大まかに分類する枠組みが使われてきました。
- レベル1:目視内での手動操縦
- レベル2:目視内での自動飛行
- レベル3:無人地帯における目視外飛行(立入管理措置が必要)
- レベル4:有人地帯における目視外飛行(より高度な条件下)
このうち、無人地帯でのドローン活用(物流、調査、点検など)が社会実装に向けて広がるなか、従来の「レベル3飛行」における運用のハードル(立入管理措置の手続き負担など)が実務上の障壁となっていました。
② レベル3.5飛行の定義
このような背景のもと、2023年12月に新たに導入されたのがレベル3.5飛行です。
レベル3.5飛行を簡単に言えば、
「無人地帯での目視外飛行(レベル3飛行)を、立入管理措置の補助者配置または看板等による周知などに変えて機上カメラなどデジタル技術で安全確認し、道路等の横断に限って移動車両等(自動車、鉄道車両、船舶)の上空の飛行や第三者の出入りのない一時的な住宅等の上空の飛行を可能とするようにした新しい飛行形態」
というものです。
レベル3.5飛行はレベル3飛行に含まれます(第三者上空は飛行できない)。
また2025年10月29日飛行マニュアルの改訂によって、「人又は家屋が密集している地域の上空では飛行させない」という記述が削除され、第三者のいないDID地区上空でも飛行できるようになりました。
2. レベル3飛行とレベル3.5飛行の違い
① 立入管理措置に関する扱い
レベル3飛行では、たとえ無人地帯での目視外飛行であっても、補助者の配置や飛行経路下やその周辺に地上看板の設置、地上カメラや気象計の設置、進入禁止区画の設定などの「立入管理措置」が義務です。
レベル3.5飛行では、これを代替する手段として「機上カメラ(ドローン搭載カメラ)によるリアルタイムでの歩行者等の有無の確認」が認められ、地上での補助者の配置や看板による周知などが不要になりました。
② 道路・鉄道などの横断や移動中車両上空の飛行
レベル3飛行では、道路や鉄道の上空を横断する場合、移動中の車両・列車上空での飛行は禁止されていたり、一時停止して安全を確認するなど慎重な運用が求められていました。
レベル3.5飛行では、機上カメラなどにより操縦者らの安全管理手段を満たすことで、こうした移動車両上空の一時的な横断が可能となります。
③ 無人航空機飛行許可承認申請
通常のレベル3飛行にかかる申請手続きにおいては、様式3種および別添資料8種の提出を求めていたところ、レベル3.5飛行に関しては運航概要宣言書を提出することで提出資料の一部が不要または簡素化されます。
レベル3.5飛行では、航空局標準マニュアル(レベル3.5飛行用)を使用します。
レベル3.5飛行では、飛行場所や飛行経路を特定して飛行するため包括申請(飛行範囲が全国)はできません、個別申請です。
3. レベル3.5飛行を行う条件
レベル3.5飛行を行うためには、以下のような条件をすべて満たす必要があります。
① 無人航空機操縦者技能証明の保有
操縦者は、国家資格である無人航空機操縦者技能証明を持っている必要があります。
さらに、目視内飛行の限定解除を受けていることが前提です。
一等である必要はなく、二等でも可能です。
② 第三者賠償責任保険への加入
万が一の墜落事故や物件への損害に備え、第三者賠償責任保険への加入が義務付けられています。
補償額については飛行内容などによって異なるため、事業者側で適切な補償額を設定する必要があります。
③ 機上カメラ等デジタル技術による安全確認
ドローンに搭載された機上カメラで、飛行経路下およびその周辺において地上の歩行者など第三者がいないことをリアルタイムで確認できること前提です。
これにより、地上での補助者の配置、看板等による周知などの立入管理措置に代替することとなります。
立入管理措置自体がなくなるものではありません。
④ 飛行場所・経路を特定した個別申請
レベル3.5飛行は、包括申請では認められず、飛行場所・経路を特定したうえで個別申請する必要があります。
基本的な流れとしては、地方航空局ではなく本省の航空局安全部無人航空機安全課あてに事前相談を行い、「運航概要宣言書」等の書類を準備 → DIPS2.0による申請 という流れです。
⑤ 安全対策の事前設定(緊急着陸場所の確保など)
飛行経路には、もし何らかのトラブル(機体異常、第三者の立ち入り、気象変化、他航空機接近など)が起きた場合に備え、緊急着陸地点をあらかじめ選定し、安全に着陸できるような手順や体制を整える必要があります。
4. レベル3.5飛行の事例
実際に、レベル3.5飛行を使ったドローンの運用・実証例が報告されています。
- 2023年12月11日、(株)エアロネクスト、(株)NEXT DELIVERY、セイノーHD株式会社が、日本国内で初めてレベル3.5飛行によるドローン配送サービス(食品配送および新聞配送)を実施。
飛行に使われた機体はAirTruck(製造:ACSL)。
配送拠点からレストラン間や個人宅への往復飛行が行われました。 - 2025年11月には、(株)エアロネクスト、(株)NEXT DELIVERYが、日本初となる人口集中地区(DID地区)を含むルートでのレベル3.5飛行による実証実験が行われました。
DID地区で運用が可能となったため、ドローン配送の社会実装、都市部での事業化を加速させる重要なステップとなります。
5. レベル3.5飛行の注意点
① 第三者上空での飛行禁止
レベル3.5で許されるのは飛行経路下および周辺に第三者がいない無人地帯での目視外飛行です(レベル3飛行に含まれる)。
機上カメラで常に確認し、第三者がいないことを確実に確認する必要があります。
2025年10月29日、航空局標準マニュアル(レベル3.5飛行)の改訂により、安全対策を講じればDID地区の上空での飛行も可能になりました(第三者上空での飛行禁止)。
② 個別申請かつ事前の安全対策
レベル3.5は包括申請では認められず、飛行場所と飛行経路を特定したうえで個別申請が必要です。
さらに、緊急着陸地点の選定、飛行マニュアルの遵守など、事前準備と事後管理ともに手間がかかります。
これらを怠ると、許可が得られなかったり、また安全上のリスクが高まる恐れがあります。
③ 法律や飛行マニュアル等の遵守と将来の法改正の可能性
レベル3.5飛行は、制度としては新しく(2023年12月開始)、かつ社会実装への過渡期にあります。
今後、事故例や社会的状況の変化に応じて、条件の厳格化、制限の追加、申請手続きの見直し、などが行われる可能性があります。
ドローン業務を行う事業者やドローン操縦者は、最新の法令等を常にチェックし、コンプライアンス(法令順守)を徹底する必要性があります。
6. まとめ
- レベル3.5飛行は、2023年12月に国土交通省が新設した、無人地帯での目視外飛行を、機上カメラなどを使ってより柔軟かつ効率的に運用するための新しい飛行レベル。
- この制度により、従来のレベル3飛行で必要だった地上での補助者の配置や看板等による周知などの立入管理措置が条件付き(技能証明や第三者賠償責任保険加入など)で不要となり、道路や鉄道の横断、移動車両上空の一時的横断、夜間・長距離飛行などがより実現しやすくなりました。
- 飛行の条件として、無人航空機操縦者技能証明(一等でも二等でも可)の保有と第三者賠償責任保険加入が条件です。
- 第三者のいる上空は飛行できません。
- 2025年10月29日、飛行マニュアル改訂によりDID地区上空を飛行できるようになりました。
レベル4飛行よりも低コストで運用できるレベル3.5飛行がDID地区上空を飛行できるようになった事で、ドローン配送の適用範囲が広がり、生活圏での利活用が進むと期待されています。




