1. 多数機同時運航ガイドライン第二版改訂の背景
ドローンは今や、農薬散布やインフラ点検、物流配送といった分野で欠かせないツールとなっています。
これらドローンビジネスをさらに加速させ、事業採算性を向上させるための鍵が、1人の操縦者が複数の機体を操る「多数機同時運航(1:N運航)」です。
令和7年3月に第一版が策定されてから約1年。実際の運航実績や技術の進歩、そして「多数機同時運航の普及拡大に向けたスタディグループ」での検討を経て、令和8年6月2日、待望の「第二版」が公表されました。
今回の改訂は、ドローンの社会実装を次のフェーズへと引き上げる画期的な内容となっています。
2. 最大の変更点!「機体数上限の廃止」がもたらすビジネスチャンス
第二版における最も大きな変更点は、「1人あたりの同時運航機体数の上限撤廃」です。
第一版では、目視外飛行において人間がカメラ映像で安全を確認できる限界を考慮し、操縦者1人につき最大5機(1:5)までとされていました。
しかし、令和7年度に行われた「1:8」や「1:10」といった大規模な実証実験の結果を受け、ルールが大きく緩和されました。
これにより、段階的な機体数の増加とリスク対策の検証を前提に、5機を超える運航が可能となります。
遠隔操縦拠点から全国各地のドローンを一括管理することで、運航コストの大幅な削減と、これまでにない規模のビジネス展開が期待できます。
3. 操縦者・運航管理に求められる「より厳格な要件」とは
機体数の制限がなくなった一方で、安全確保のための「人」と「組織」への要求はより具体的かつ厳格になりました。
- 操縦者の能力:単に飛ばせるだけでなく、「異常が発生した機体への対応と、他の正常機の運航監視を両立させる能力」が必須となります。複数機で同時にトラブルが起きても、優先順位をつけて冷静に対処するスキルが求められます。
- 教育訓練:同時運航する機体数を段階的に増やしていく「段階的慣熟訓練」や、緊急時の操作に習熟するための机上・実機訓練の実施が義務付けられています。
- 運航体制:直接関与者(操縦者、補助者等)の役割分担を明確にし、組織的に連携できる体制が必要です。また、機体数が増えても遅延なく映像伝送ができる十分な通信環境(通信容量・品質)の確保も重要な要件となっています。
4. リスクを視覚化して対策!「ボウタイ分析」と具体的な予防・回復策
機体数が増えれば不具合の発生確率も高まります。そこでガイドラインが推奨しているのが、リスクの原因と結果を蝶ネクタイのような図で可視化する「ボウタイ分析」です。
運航者は、以下の3つの大きな不安全事象に対して、「予防策」と「回復策」の両方を準備しなければなりません。
- 状況把握の不十分:ワークロード分散のための飛行計画作成や、アラート表示システムの活用(予防)、緊急着陸地点への着陸(回復)など。
- 機体の制御不能:通信の冗長化や操縦装置の処理能力の事前検証(予防)、パラシュートの装備(回復)など。
- 機体同士の接近:飛行ルートの離隔設計や自動衝突回避システムの搭載(予防)、操縦権限の移譲(回復)など。
5. 許可・承認申請をスムーズに進めるための必須マニュアルと手順
多数機同時運航の許可・承認を受けるためには、従来の飛行マニュアルに加え、以下の5種類のマニュアル(又は記載事項)を追加で作成する必要があります。
- 運航マニュアル:組織としての対応手順や運航基準
- 通常時対応手順書:日常点検や具体的な運航手順
- 緊急時対応手順書:異常事態への具体的な対処法
- 安全管理規程:安全方針やリスクマネジメント体制
- 教育訓練・資格管理マニュアル:訓練カリキュラムと記録
レベル3飛行の場合、過去の同様な運航実績があれば、文書番号を引用することで申請の「1日化」を目指す運用となっています。
レベル3.5飛行では、事前に航空局と「運航概要宣言書」の内容について合意しておくことがスムーズな承認のポイントです(1日程度で許可・承認されます)。
6. まとめ
今回のガイドライン改訂(第二版)は、ドローンビジネスの採算性を飛躍的に高める「機体数上限撤廃」という大きな舵を切りました。
しかし、これは「無条件に何機でも飛ばして良い」という意味ではありません。機体数が増えるほど、ボウタイ分析に基づくリスク検証や、操縦者の高度な訓練、そして組織的な運航管理体制が不可欠となります。
多数機同時運航は、操縦者個人のスキルだけではなく、組織としての総合的な安全管理能力が問われる高度な運用です。
この新ルールを正しく理解し、適切な対策を講じることで、次世代の空の産業をリードしていきましょう。

